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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)2249号 判決

東京都港区芝伊皿子町五二番地

原告

稲見光

被告

右代表者法務大臣

右指定代理人

法務省訟務局付検事

真鍋薫

法務事務官

徳田平

大蔵事務官

恩蔵章

右当事者間の公売代金配当請求事件について、当裁判所は次の通り判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、被告は原告に対し金百四万九千百三十四円及び之に対する昭和三十一年八月十日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求原因として次の通り述べた。

一、原告は昭和二十七年四月一日、訴外田中熱機株式会社に対して金七百万円を貸与し、別紙目録記載の物件について抵当権設定契約を締結し、同年六月十七日、東京法務局大森出張所受付第七四四四号を以て順位第四番の登記を済せた。

二、訴外会社は戦時中軍需工場として相当の成績を挙げていたが、終戦後業績全く振わず、昭和二十四、五年頃より債務漸くその額を増し、同二十七年六月中旬に及んで銀行取引は停止され、之と同時に国税も滞納勝となり、同年六月二十三日、大森税務署よりその財産全部に亘つて差押を受け、同年七月二日東京法務局大森出張所受付第八二一二号を以て之が登記を済まされた。

三、東京国税局は昭和三十一年六月二日及び同年七月二日の二回に亘り前記差押物件について公売処分を行い、その第一回の公売代金二百五十一万円を滞納処分費及び税金に充当し、第二回の公売代金千九百二十三万三千円については滞納処分費、税金に充当した剰余金を国税徴収法の規定するところにより順位第一番及び第二番の抵当債権者に夫々その債権額に充つる迄交付し、更に順位第三番の根抵当債権者には、その債権極度額五百万円中金三百九十五万八百六十六円を交付したが、第四順位の抵当権者である原告に対しては金六百三万五千九百九十円を交付したのみで残余の金百四万九千百三十四円につき相変らず供託を持続し、配当を拒否している。

そこで右残余金百四万九千百三十円及び之に対する昭和三十一年八月十日以降完済迄年五分の損害金の支払を求める為め本訴請求に及んだ。

被告指定代理人は

一、本件訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、本案前の答弁として、次の通り述べた。

本件訴旨は要するに、東京国税局長のなした供託金の還付を求めるというにある。一般に訴以外の法律上の手段が法定され且この手段にのみよらせる趣旨の制度がとられている場合には、右の手続を経ないで直接訴の方法によることは許されない。供託金の還付もその制度の一であつて、供託法第八条、供託物取扱規則第五条に定める手続に従つてのみ之を為し得るものである。その点から本件訴は却下されるべきである。

二、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、本案に対する答弁として次の通り述べた。

原告主張の事実中、第一項の事実及び第二項中大森税務署が原告主張の物件を差押え、その旨の登記を経たことは認めるがその余の事実は不知、第三項の事実は配当を拒否しているとの点を除き認める。

理由

原告の本件訴は供託金の還付を求めるものと解すべきところ、之は供託法第八条、供託物取扱規則第五条に定める手続に従つてのみ為し得るものであるから、原告の本件訴は所謂権利保護の要件を欠き却下を免れない。

そこで、本件訴は之を却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 立沢秀三)

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